【ウェストミンスター小教理問答問一八の証拠聖句に関する一考察】
    辻 幸宏牧師   


 一 理解不能な証拠聖句
 ウェストミンスター信仰基準では、本文に続いて、証拠聖句が付加されております。しかしながら、なぜこの告白に、この聖句が挙げられているのか、正直理解できない箇所も多々あるのも事実であります。

 @聖書の違い
 これにはいくつかの要因が考えることが出来ます。現在私たちが用いています日本語訳(新共同訳・新改訳・口語訳など)と、ウェストミンスター信仰基準が作成された当時用いられていたキング・ジェームズ訳との相違を考えなければなりません。ここには、聖書の本文研究が進んだ故に、訳が変わってきた部分があるからです。例えば、信仰告白2章3節、同21章2節、大教理問9、同11は、いずれも、いずれも第二コリント13章14節となっています。しかし日本語訳聖書を開いていますと、13章は13節までしかありません。これは、本文研究が進んだ結果、14節に含まれていた本文が、現在では、13節に含まれているからであり、従って、信仰告白・大教理においても、13章13節に移動させておかなければならないのです。

 A誤りの混入
 また第二の原因として言うことが出来ることは、信仰基準が作成されて以来、証拠聖句の正誤の検証がまったくされて来なかったからであります。つまり実際、神学者会議が意図していた証拠聖句とは異なった箇所が記されているため、理解出来なくなってしまっているのです。そして、前号にて、その第一歩として、日本基督改革派教会訳(以下、改革派訳)における証拠聖句の誤りの一覧を指摘させていただきました。


 二 ウ小教理問18における誤り
 序.
 今回は、証拠聖句の検証作業の課程を、紹介させていただきます。
 ウェストミンスター小教理問答問18は、改革派訳で、以下の通り記されています(以下に示す教理問答は、表記がない限り、すべて新教出版社発行の改革派訳(榊原訳)※を使用しています)。

問18 人が堕落した状態の罪性は、どの点にありますか。
答  人が堕落した状態の罪性は、次の点にあります。すなわち、アダムの最初の罪の罪責を負うていること、原義を失っていること、人の性質全体の腐敗つまりいわゆる原罪があること、そこからあらゆる現行罪が生じていることです(1)。
 1 ロマ5章12、19節、5章10〜20節、エペソ2章1〜3節、ヤコブ1章14〜15節、マタイ15章19節。

 ここで、2つの証拠聖句に注目しなければなりません。ローマ5章12、19節とローマ5章10〜20節です。この2つの聖句は、重複しており、理解することが困難な箇所であります。このことに関して、私なりの所見を述べさせていただきます。

@ローマ5章12、19節とローマ5章10〜20節が重複していることに対する疑問
 ウェストミンスター信仰基準(信仰告白・大教理問答・小教理問答)では、上記の他に、聖句が重複して証拠聖句として挙げられている所は存在しません。疑問に思われる箇所は、いくつか存在します。大教理問答問121Bと小教理問答問60Cです。
 大教理問121では、「詩92篇(13、14節と比較)、・・・」と記されています。しかしここを、証拠聖句が完成してから最初に印刷された1648年版で確認してみますと、"Psal.92.title with vers.13, 14"と記されており、「詩編92編1[92篇の表題]を92編14、15節[92篇13、14節]と比較」(松谷訳)が正しくなり、重複ではありません。(松谷訳は新共同訳を採用し、括弧内に口語訳・新改訳の聖句が表示されています)。
 また同様に小教理問60では、「マタイ12章1〜31節、12章2節、12章12節」とありますが、「マタイ12章1〜13節」(松谷訳)が正しいため、これもまた重複はしていません(以上、前号提示済)。
 従ってこの小教理問18のみが、聖句重複が見られる唯一の箇所であると指摘出来ます。さらに小教理問18に関して、1658年版の様に、「ローマ5章10〜20節」のみを記し、「ローマ5章12、19節」は削除している例もあります。こうした操作が行われたのは、聖句が重複しているため、印刷段階にて削除したと考えることができます。そしてこうしたことは、必然的に起こりうることであったとも言えるでしょう。

Aローマ5章10〜20節の区切りに
 対する疑問
 ところで次に疑問として考えられることとして、「ローマ5章10〜20節」の区切りを挙げることが出来ます。ローマ書5章では、11節と12節との間が区切りと考えられます。新共同訳聖書では、この間で段落分けをしており、表題を付けています。また信仰基準においても、この部分を証拠聖句として採用している他の箇所を取り上げてみますと左記の通りとなり、11節と12節をまたいで用いられる例は他にはありません。

※参照:ローマ5章における証拠聖句
              (抜粋)
 5章8〜10節 大教理71@、
        信仰告白11章3@
 5章10〜20節 小教理18@
 5章12〜20節 大教理22A、
        信仰告白7章2B
 5章15〜19節 信仰告白6章3@
 5章15〜21節 大教理31@

 以上のことから、小教理問18において「ローマ5章10〜20節」が証拠聖句として取り上げられていることは、不自然であると言えます。従って、ウェストミンスター小教理問答問18において、「ローマ5章10〜20節」と表記されていること事態を疑問にしなければなりません。
 しかし、ウェストミンスター神学者会議において小教理問答が作成された時点で最初に議会に提出され、印刷された1648年版においてすでに、「ローマ5章12、19節、ローマ5章10〜20節」と印刷されていることから、神学者会議において印刷される過程において、すでに誤植・誤記がされていたと考えることが出来ます。

B大教理から作られた小教理
 次にこの問題を考える時、小教理問答の作成過程から探ることにしましょう。つまり矢内先生が語られておられる通り、小教理問答は、大教理問答が作成された後に、大体の部分を大教理問答を簡潔にすることによって、作成されました。そのことは、大教理問答と小教理問答を比較することにおいて、容易に理解することが出来ます。
 例えば、大教理問1と小教理問1とを比較して見ると、以下の通りになります。

*大教理 問1
問 人間のおもな、最高の目的は、何であるか。
答 人間のおもな、最高の目的は、神の栄光をあらわし(1)、永遠に神を全く喜ぶことである(2)。
 1 ロマ11章36節、Tコリント10章31節。
 2 詩73章24〜28節、ヨハネ17章21〜23節。

*小教理 問1
問 人のおもな目的は、何ですか。
答 人のおもな目的は、神の栄光をあらわし(1)、永遠に神を喜ぶことです(2)。
 1 Tコリント10章31節、ロマ11章36節。
 2 詩73編25〜28節。

 この両者の証拠聖句を比べて見ると、一目瞭然であります。(1)は逆になっていますが、同一であります。また(2)は、小教理で「詩73章25〜28節」となっているのは、1658年版以降の誤植であり、1648年版では「詩73章24〜28節」となっており(前号で指摘済み)、これもまた同一であります。従って、大・小教理の問1における証拠聖句の違いは、(2)で「ヨハネ17章21〜23節」が、小教理において削られているのみであります。
 同じようにして、大教理問25と小教理問18を比べて見ることが出来ます。

*大教理25
問 人間が堕落したその状態の罪性は、どの点にあるか。
答 人間が堕落したその状態の罪性とは、アダムの最初の罪のとがと(1)、彼が創造されたその義を失っていることと、それによって彼が、霊的に善であるすべてのものに、全く嫌気がさし、不能となり、逆らうものとなり、すべての悪に全く、それも絶えず、傾いている本性の腐敗である(2)。これは普通に原罪と呼ばれ、すべての現実の違反がそれから生ずるのである(3)。
 1 ロマ5章12、19節。
 2 ロマ3章10〜19節、エペソ2章1〜3節、ロマ5章6節、8章7、8節、創世6章5節。
 3 ヤコブ1章14、15節、マタイ15章19節。
 ※(2)「ロマ3章10〜19節」となっているのは「ロマ3章10〜20節」の誤植です。

*小教理問18
問 人が堕落した状態の罪性は、どの点にありますか。
答 人が堕落した状態の罪性は、次の点にあります。すなわち、アダムの最初の罪の罪責を負うていること、原義を失っていること、人の性質全体の腐敗つまりいわゆる原罪があること、そこからあらゆる現行罪が生じていることです(1)。
 1 ロマ5章12、19節、5章10〜20節、エペソ2章1〜3節、ヤコブ1章14〜15節、マタイ15章19節。

結論
 この様に両者を比較することにより、小教理問答における証拠聖句は「ローマ5章10〜20節」は、本来「ローマ3章10〜20節」であるとの推論を立てることができます。
 そしてこの原因として考えられることは、1648年版において「3」と「5」を誤植した結果であると考えられます。ただ小教理問答作成当時から現在まで、この誤りが指摘されることなく放置されてきたのだと考えることが出来ます。
 またこの結果、ウェストミンスター信仰基準の作成において、証拠聖句には、重複した箇所は考えられなかったことも結論づけることが出来ます。


                                (2003.7 東部中会機関紙「まじわり」掲載)

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